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写真関連のニュースと写真ギャラリー,そして文化人類学に関する記事を掲載しています。


by okphex
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情熱と夜明け。

しばらく映画を観てなかったのですが,最近「パッション」と「ドーン・オブ・ザ・デッド」という映画を観ました(どういう組み合わせだ)。

あまり共通点のなさそうな2つの作品ですが,どちらも,これまで何度も映画の主題として取り上げられているという点が共通してます。

時代毎の作品を見比べてみると,その作品が製作された当時の風潮や傾向が反映されていることが分かり,興味深いですね。

ここではあえて,あまり関係のなさそうなこの2つの作品を比較してみます。

「パッション」は,広く知られている,キリストの受難・復活の過程を,聖書に忠実に描いた作品です。この作品では,キリスト自身の精神の神聖性は保持しつつ,キリストの肉体が過剰なまでの暴力で破壊される様を,これまでの映画では観られない程リアルに描写することで,キリストの受難に一層の説得力を与えました。
特殊メイクや特殊効果等の先端技術は,キリストの受けた苦痛がどれ程激しいものであったかを観客に視覚的に体験させるために用いられています。その結果,ローマ法王からも描写の正確さを評価されたにもかかわらず,映画の鑑賞に年齢制限が課される事となりました。

それと比較して,ホラー映画の古典として名高い「ゾンビ」のリメイク版である「ドーン・オブ・ザ・デッド」では,スピード感を重視した演出の為か(これまで,のたのたした動作だったゾンビ達も,この作品では,素晴らしいまでのダッシュを披露する!),執拗で直接的な残酷描写はむしろ控えめで,まるでテレビゲームの様に,軽快に物語は進行します。とはいっても,R-15に指定された映像は,一食分の食欲を失くすには十分すぎるほどでしたが…。
しかし,現在の特殊効果技術をもってすれば,オリジナルを凌駕するほどの,グロテスクでリアルな映像を作りだすことは容易だったでしょう。それをあえて,残酷描写よりも軽快な演出を重視した所に,生身の人間は登場しないが,リアル画面とスピーディーな展開が特徴のホラーゲームの演出の影響,そして過激な主題を取り上げながらも,少しでも多くの観客を取り込むために直接的な残酷描写を避けたがる,映画製作者側の思惑が感じられます。

神聖な存在であるキリストを描いた物語が,年齢制限を辞さない程残酷な描写を強める反面,これまでキワ物的な存在で,リアルでグロテスクな描写を競っていたホラー映画が,軽快感を重んじて執拗な残酷描写を抑える演出に転じたという,聖と俗を体現するような二つの作品の演出上の逆転現象は,現在の映画製作の傾向と,観客側が求める映像の微妙な接点が背景に透けて見えて,とても興味深く感じます。

なんか,終始カテゴリーと関係のない話題となってしまいました。
by okphex | 2004-06-06 19:33 | 人類学・人文科学