人気ブログランキング | 話題のタグを見る

写真関連のニュースと写真ギャラリー,そして文化人類学に関する記事を掲載しています。


by okphex
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

キトラ古墳内部の撮影に,1600万画素のデジタルカメラを使用。石室内部にカビの発生を確認

3月18日に,奈良県明日香村のキトラ古墳(7世紀末から8世紀はじめ)内部の壁画を,文化庁の調査チームが高性能デジタルカメラによって赤外線撮影しました。同時に,撮影前の調査で,石室内部にカビが発生している事があきらかになりました。
(キトラ古墳についての詳細な情報,研究内容については,こちらをご覧ください)

赤外線撮影は,絵画の調査に良く使われる方法で,表面からは見えない下絵を調査するために用いられます。今回は38枚撮影され,解析結果は4月上旬に発表される予定です。壁画の表面の状態からだけでは判断出来ない,新たな絵画が発見されるかもしれません。

今回の撮影では,1600万画素のデジタルカメラとファイバースコープを用いて,赤外線撮影を行いました。
これまでは,400万画素のデジタルカメラで撮影が行われていましたので,デジタル機器の進歩によって,更に詳細な画像を得る事が可能になりました。

これまでも,キトラ古墳の石室内部の調査では,外気の影響を出来るだけ最小限に抑えるため、石室まで紬い穴を開け、医療用の胃カメラの要領でファイバースコープを石室内に挿入し、内部の壁画を撮影する方法が用いられました。
この方法で1983年に玄武の壁画,98年に青龍・白虎と天文図が発見され,キトラ古墳は2000年11月に国特別史跡(国宝に値する遺跡)に指定されました。
(調査のイメージ,写真については,こちらこちらをご覧ください)

しかし,重要な発見が続くと同時に,石室内部の壁画は非常に危険な保存状態にある事も明らかになりました。

そこで,高性能デジタルカメラを用いるなどして,これまで以上に石室内の保存状態を良好に保つ努力が払われてきました。

ここまで細心の注意を払ったにも関わらず,カビの発生を許してしまいました。原因としては,石室内部に封土上の植物の根が侵入し,もともと安定した湿度を得にくい状況だった事,今年1月に,石室内を撮影するためにごく小さな穴をあけた際に石室内の温度・湿度が変化し,カビが発生した,等が挙げられます。現在石室内の土や壁面の数カ所にカビが認められ,壁画のある南壁・東壁にもカビが発見されたようです

湿度の上昇による危険は,カビだけではありません。長期間外気に触れなかった遺蹟内部の壁画は、温度・湿度の変化に弱くなっています。外気の流入によって,壁画の描かれているしっくいが急激にもろくなり、剥離や変質を起こす恐れがあります。

絵の具のように,安定性の低い素材で構成されている絵画にとって、温度の変化以上に湿度の変化は非常に大きな影響をもたらします。美術館のように,構造上比較的空調の安定した場所ですら、空調機器が十分に機能しなかったために、一夜にして古い絵画の絵の具が剥離を起こす事故が起きる事があります。

温度・湿度の管理は,調査者や資料保管担当者にとって,最も重要な課題といえるかもしれません。

カビの対策としては,アルコールで殺菌したり,燻蒸処理が行われていますが,わずかでもカビの発生を招いたという事は,石室内の湿度・温度がカビの発生に好都合という事なので,石室内部の環境保存としては本質的なものではなく,今後も楽観を許す状況ではありません。

これ以上の状態悪化をくい止めるためには,考古学資料保存の専門家を総動員して対策を練る必要がありそうです。
by okphex | 2004-03-24 15:59 | 人類学・人文科学