積極的な人生肯定としての”自死”
2010年 01月 12日
「自死」という、ともすれば生への執着の放棄と受け取れられかねない決断を、一人の思想家がどのような思索を経て到達し、実施するに至ったのか、最初は興味半分で読み始めました。
病や老いに絶望した末の決断かと思いきや、「人生の到達点」と本人が見なした時点での、「積極的人生肯定」のための行動として亡くなった筆者が捉えていたことにまず意外な思いを抱きました。
本書の著者で、自ら命を絶った須原氏が思想の下敷きにしたのは、「武士道」とその哲学を著した「葉隠」でした。つまり、「いつでも死ぬつもりの覚悟で生き、死を決断する際は一切の躊躇をしない」という境地に至ることで、人生の「極み」を楽しむ生を送ることができるというものです。
こうした「武士道」について論じた本書の6章は、短いですが、著者が最も思い入れのある章であるためか、読み応えがあります。それ以前の、ソクラテス、三島由紀夫、伊丹十三の自死について論じた章は、やや主張の強引さと回りくどさが否めません。思索に没頭する余り、筆が踊りすぎたのでは、と思います。
亡くなった須原氏の「決断」と「覚悟」は、一人の思想家の一貫した姿勢として感心しますが、やはり「自死」は近親者の悲しみなどを考慮に入れない行為ではないかと感じます。幸い須原氏の家族や友人には、理解力のある人達が多かったようですが。
by okphex
| 2010-01-12 23:51
| 書籍