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by okphex
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『ネクスト・ソサエティ』

今回は、写真の話題から少し離れて、昨日読んだビジネス書の内容についてお知らせします。

ネクスト・ソサエティ ― 歴史が見たことのない未来がはじまる

P・F・ドラッカー / ダイヤモンド社


本書は、世界の経営者に大きな影響力を与えている思想家、ピーター・ドラッカー氏が、911テロ直後の2002年に、それまで彼が発表していた論文と、911後に書き下ろした論文をまとめたものです。

彼が本書で問いかける主題は、「これまでの世界は経済・技術の変化が社会を引っぱってきたが、これからは社会の変化の方が経済・技術を引っぱっていく」というものです。

この観点から、国民国家の変容、新自由主義批判、日本の政治・経済構造改革の行方、IT技術を核としたビジネス展開の可能性、新たな社会組織としてのNPOの役割拡大などが論じられます。

当時、日本はバブル経済崩壊後の景気低迷と、硬直化した政治・官僚機構がもたらす構造変革の遅れに苦しむ中、小泉政権のもとで大胆な「構造改革」を推進しようとしていました。その一方で、世界を覆うインターネットの爆発的な普及は、グローバルな市場経済拡大を推進し、IT関連産業が急成長のただ中にありました。

誰もが21世紀の世界はアメリカ型新自由主義とIT技術の発展が続くものと考えていましたが、2001年9月の911テロがこうした認識を一変させます。

こうした情勢が本書の背景にあること、その後世界がどう動いていったのかを念頭に置きながら読み進めると、多くの発見があります。

2000年以前から、ドラッカー氏はインターネットを利用したeコマースの発展を予見していましたが、これは概ね実現したといえるでしょう。一方、自由主義経済の限界を指摘した点についても、2008年のリーマンショックによる金融市場の大混乱と世界的な景気後退によって現実のものとなりますが、こうした大混乱が、彼が可能性を見い出していた、高度に発展したIT技術によって倍加されたのは必然とはいえ、皮肉なことです。

構造改革の最中にあって、日本の年功序列制や終身雇用制、官僚機構は日本の内外から、変革を遅らせる元凶であると、みなされてきました。小泉政権の推進した「構造改革」は、自民党政権の枠組み内でとはいえ、こうした旧弊のシステムに手を入れることに成功し、日本も「変化」が可能であると、国民自身が認識するようになりました。
こうした流れが今年の民主党政権の誕生という政治的な大変革に繋がっていったと言えるでしょう。

では、本当に社会の変化が経済よりも大きな潮流となっていっているのか?と問われれば、それはさらに今後のことではないかと考えます。

先進国での高齢化の進行、産業構造の変化は、既に現実のものとはなっているものの、現在はまだ、こうした社会変化が本格化する際の備えをどうするのか、という制度作りに重点が置かれているようです。NPO組織などが力を付けつつあるとはいえ、大企業や国家といった旧来のプレイヤーはまだその力を十分に保持しています。

社会の変化はこれまでの歴史で繰り返されてきたような、「戦争」や「革命」といった、劇的で、急速な形で現われるというよりも、地域や個人レベルでの静かな形で現われるのかも知れません。ダニエル・ピンクの「フリーエージェント」が大きな力を持つようになる、という予想や、ウェンガーが指摘した、制度化された組織構造内で、こうした構造を横断する形で形成される「実践コミュニティ」などは、来るべき社会の一旦を、具体的に示したモデルといえるでしょう。

ドラッカーやピンクらの論調を踏まえると、ネクスト・ソサエティにおいては、大きな組織に属すことよりも、比較的小規模な社会やコミュニティにおいて、個人レベルで重要な役割を果す能力を有する人材こそが、社会的なステータスされるのかもしれませんね。
by okphex | 2009-11-18 23:17 | 書籍