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by okphex
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フィールドワークの記録方法についての覚え書き。

今回のフィリピン調査は2週間程度と短い滞在期間でしたが、僕が研究しているフィリピン武術の実践とマニラ首都圏のコミュニティの変遷との関連が明らかになるなど、ここ一年半の総決算となるような成果を得られた調査でした。

具体的な成果は文化人類学の専門領域に関わることなので別稿で述べるとして、フィールドワークの最中に行った工夫について覚え書きとしてここに記しておきたいと思います。とりわけここでは、電子機器類の使用を減らすことで、結果的に調査の負担が大きく減ること、またGoogleに代表される、インターネット上で提供されているサービスの活用が、フィールドワークにおいて有効であったことを、これまでの僕自身の経験に基づいて書いてみたいと思います。



もちろん、以下の方法の中でも、特にインターネットの活用については、随所で軒を並べるインターネットカフェを通じて、廉価で快適な接続サービスを利用可能な、マニラ首都圏だからこそ言えることだということは留意して頂く必要があります。多くの文化人類学的研究が対象としているような、電力やインターネット基盤が充分に整っていない地域の環境では当てはまらないはずです。しかし、近年は地球上のあらゆる地域で情報技術の基盤が発達しつつあります。今すぐの利用は難しくても、いずれこれらの手法は多くの地域で簡単に利用できようになると考えられます。ただでさえ多大な身体的・精神的ストレスを追って調査に従事しなければならない研究者の方々の負担が少しでも軽減できればと思い、ここに記します。

1.電子機器類に対する負担
以前は日本から様々なものを持ち込んでフィールドワークを行ってきました。細々とした日用品やノート類、お金などの必需品はもちろんですが、電子機器だけに絞ってもノートパソコンやビデオカメラ、デジタル一眼レフカメラにボイスレコーダー、携帯電話などなど多岐にわたります。

これらの機器は一つ一つに絞ってみればそれほどの重量ではないのですが、全部を持ち歩こうとなると驚くほどの重さになります。さらに充電器や、電圧の違う地域で必要な変圧器、ケーブル類などの付属品を合わせると、電子機器だけで優に大きなカバン一つ分の荷物になってしまいます。これでは日本から現地に到達するだけでも疲れ切ってしまいます。また現地では、機器を持ち運ぶ場合であれ、滞在場所のホテルや自室に置いている場合であれ、事故や盗難に神経を使わざるを得ません。しかしこれまでは、いずれの機器も調査の記録に必須であることを考えて、重さを我慢して持ち運んでいました。

2.機器の絞り込み
しかし、今回の調査では、使用した電子機器はデジタル一眼レフカメラ、ボイスレコーダー、携帯電話だけです。この中でもボイスレコーダーはポケットに入るほど小さく、電池は単4型のものを使うため、ほとんど重さやバッテリーの心配をする必要はありません。また携帯電話も、現地で買える最も小さくて安価なものを使いました。通話と、日本のメールに相当する「テキスト」が使えれば、機能としては十分事足りるからです。また、日本に国際電話する場合も、わざわざ日本から持ち込んだ携帯電話を使うよりも、プリペイド式の現地の携帯電話の方が、通信料も安くなります。

重量が幾分あるのはデジタル一眼レフカメラですが、最近のカメラは高性能な上に動画撮影機能もあるので、ビデオカメラも持ち歩くことを考えれば結果的には重量と荷物数の削減になりました。

3.ノートの取り方
これまでフィールドワークでは必須の機材と考えていたノートパソコンも、結果的には必要ありませんでした。一日の調査を終えてフィールドノートの内容をパソコンに打ち込むよりも、手書きノートの整理方法を工夫した方が、後の資料としての活用に適していると気付いたためです。
僕はポケットに小型手帳、リュックにA4型ノートを持ち歩いています。すぐにメモを取ったり、移動や支払いなど日常の記録を取る際に小型手帳を使い、また腰を据えてインタビューをする時にはA4型ノートに書き込むなどして使い分けをしたのです。

小型手帳で愛用しているのは、デルフォニックス(DELFONICS)社のロルバーン(Rollbahn)という手帳です(デルフォニックス社手帳製品のページ)。この手帳シリーズの中でも、ポケットに収まり、一ページに十分な分量が書き込めるスリム型を使っています(小さなポケットの場合は、収納時にリング部が少々邪魔になりますが)。

この手帳は表紙、裏表紙とも固いボール紙で出来ていて、立ったまま記入をしても紙が折れず、安定した筆記が出来ます。また薄い方眼が印刷されているため、見取り図を書いたりするのも便利です。クリアポケットが5つ付いているため、チケットやレシート、ちょっとしたプリントをその場で収めることが出来る点も便利です。細かいことですが、紙は薄いクリーム色をしているため、ぎらつきがなく紙面が見やすいところも助かります。

一方A4型ノートは、コクヨの実験ノートを使っています。よく大学の生協などで売っている、科学系の実験記録に用いる、黄色い表紙のものです。こちらも薄い方眼が印刷してあって、文章の階層化や図表の書き込みが簡単にできる点が優れているのですが、単なる方眼ノートより優れていると僕が評価しているのは、ページの左と下部に、自由に書き込めるスペースが空けてある点です。

一通りノートを取った後で、この空欄部にキーワードやまとめを書いていくことで、いつの間にかノートの整理が出来ていました。ちょうどコーネル大学式ノート術のような使い方ができるわけですCornell University 「The Note-Taking System」

これらのノートを使い分けることで、ノートパソコンで行っていたほとんどの作業が事足りてしまいました。手書きに移行して気付いた重要なことは、ノートパソコンに打ち込む習慣を付けてい時は、「ノートパソコンがないとフィールドノートのまとめが出来ない」という強迫観念にも近い思い込みを持っていた事でした。ただフィールドノートの整理をするためにわざわざ重い荷物を提げて、さらに電源を探してうろうろしていた事を思い出すと、いかに時間と神経を無駄に費やしていたかを痛感しました。

4.Googleのサービスを使ったバックアップ
しかし、これらの方法だけではどうしても不可能な問題が生じてきます。それは、デジタルカメラやボイスレコーダーのデータをバックアップすることです。いつ盗難や紛失といった目に遭うか分からない調査において、大事なデータをメモリーカード一枚だけに保存しておくのは危険が多すぎます。

そこで活用したのが、Googleが無料で提供しているPicasaウェブアルバムと、Googleグループと言う機能です。

カードリーダーを持ってさえいれば、ほとんどのインターネットカフェのPCでメモリーカード内の写真データをPicasaのオンラインアルバム上に保存しておけます。無料でも一定のスペースが利用可能ですが、写真データが大量になる場合は、予め保存容量を拡張しておけば(有料)、10GB以上のデータを取り込むことが出来ます。かなり長期間のフィールドワークでも、これだけの容量があれば十分でしょう。

また写真データ以外のデータでも、Googleグループで自分だけのグループを作っておけば、そこにアップロードしておくことが出来ます。ただし一グループに付き100MBまでしかアップロードできないので注意が必要です。これ以上のデータをアップロードするためには、今のところ別グループを作るぐらいしか対処方法がなさそうです。

また、Googleドキュメントは、先の手書きノートでの記録では難しい機能を提供してくれます。特に「スプレッドシート」は、エクセルのように日々の調査活動をキーワードや簡単な要約などの項目ごとに入力することで、後でざっと調査内容を見直してみたり、キーワードの検索を行うことで、ある情報をいつ聞いたのかを瞬時に把握することが出来ます。僕は日時毎に、「キーワード」、「人物」、「日誌」、「成果」の項目を入力していました。

僕はこのスプレッドシートへの入力を、一日の調査のまとめとしていましたが、同時にもしフィールドノートを紛失したとしても、最低限の情報は手元に残るという安心感にも繋がりました。

アクセスほどの高機能なデータベースは望めませんが、むしろ入力項目や内容は、出来るだけ簡潔にすべきだと思います。なぜなら、インターネットやPCが使えない環境でも、簡潔な項目なら十分手書きのテーブルでも対処できるからです。あくまで手書きでも可能な方法を軸にして、あまりPCならではの複雑な機能を使いこなそうとしないことが、精神的負担を減らすコツなのかも知れません。

このようにGoogleのサービスを使うみそは、データの管理を全て自己責任で行うのではなく、信頼性の高い(といっても時々接続不良などの事故はありますが)システムを無料、あるいは極めて廉価で利用できる点です。オンラインアルバムやデータ保管については、他にも有用なサービスがあるのでしょうが、幾つかの機能を同時に利用できるサービスは、僕は今のところGoogleしか知りません。同じサービスの機能を利用することで、ログイン/ログアウトの手間が大きく省けるのです。

さらにGmailの他アカウント転送を使えば、どこでも自分のメールの送受信が可能になりますが、本稿の主旨とそれるので詳細は省きます。Gmailのヘルプを見ると、設定方法が説明されているので、Gmailのアカウントを持っている方はすぐに利用できるはずです。

オンラインサービスを使ったデータバックアップで最も注意すべき点は、ウィルスに感染しているPCにメモリーカードを接続した場合は、ウィルス感染の危険性があることです。時々はオンラインの無料ウィルスチェックサービスを使って、カードを検査しておきましょうTrend Micro社のオンラインウィルスチェックサービス

5.補足(海外での日本語入力の方法)
最後に、海外での日本語入力方法についてご紹介します。

既にブログでも書いているとおり(「マニラへ。」)、Ajax IMEというサービスを使えば、Windows XP以降のOSを搭載したPCなら何の問題もなく日本語が入力できるはずです。Ajaxのフォームで日本語を入力後、しかるべき場所に文字をコピー&ペーストするだけです。恐らくXP以前のOSを搭載したPCでも、よっぽど古いものでない限り利用可能なはずです(試していないので正確なことは分かりません)。

またマイクロソフト社のサイトからGlobal IMEをダウンロード/インストールすることでも日本語入力が可能となります。

海外ではブラウザが日本語表示すら出来ない場合も多々あります。インターネット・エクスプローラは多言語に対応しており、言語データの変換(エンコード)は自動で行ってくれるはずですが、インターネットカフェによっては、表示言語に制限を課している場合があります。
その場合は、ACCESS-J Japanese WWW Page Viewerを使います。このサイトで見たい日本語サイトのアドレスを入力すれば、なんとサイト上の文字を画像データに変換して表示してくれます。少々表示に時間がかかるのが難点ですが、緊急時には大変有効なサービスと言えるでしょう。


以上、簡単なメモ程度のつもりが随分長々とした文章になってしまいました。ここまで読まれてお分かりの通り、上記で説明した方法は、あくまで僕がフィールドワーク中に試行錯誤しながら見つけていったものです。当然のことながら、「これこそが最善の方法だ」などとは全く考えていません。むしろ、より便利なサービスや効率の良い方法が他にもあると思っています。

しかし、もし僕が苦労した経験が、これから日本国外での調査に従事する方、あるいは現在既に現地で格闘されておられる方に、少しでもお役に立てたならば幸いです。
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by okphex | 2009-08-25 22:49 | 人類学・人文科学