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『文化移民』

藤田結子著の『文化移民』を読みました。
マルチサイテッド・エスノグラフィーと呼ばれる、複数の地域をまたいだ社会調査の手法を用いつつ、日本の若者達の他地域への移住と帰還の道のりを辿ります。
本書に登場する数十人の若者達は、音楽やアートといった、流行文化や大衆文化の中心地への憧れと新天地での生活を夢見て、ニューヨークやロンドンに旅立ちます。
しかし当然のことながら、現地での生活は彼らが思い描いたものとは大きく異なり、生活習慣の違いや民族的人種的な障壁の問題に直面します。
こうした状況において、彼らの内面では、「故郷(ホーム)」としての日本への想いがこれまで以上に大きく意識されるようになったといいます。そして彼らの多くは再び日本に回帰していきます。
「移民」は、経済、政治、文化のあらゆる領域に大きな影響を及ぼしている、人々の移動現象です。その動因については、グローバリズムの議論と関連づけられて、多くの研究や理論構築がなされてきました。
しかし、本書に登場する若者達の行動や声を拾い上げていくと、そこには合理的で精緻な社会科学の理論で描かれる数字としての人間とは異なった、生々しい人間像が浮かび上がってきます。彼らは特定の集団を形成したり、巨大な動きを意図的に形成することなしに、世界を取り巻く「エスノスケープ(人々・民族の移動状況)」の当事者となっています。移民自体は19世紀後半から大きな増加を見せていますが、現在の移民状況が大きく異なるのは、異文化に対する憧れといった想像力と、その想像力を喚起する各種メディアの影響力が、経済的動機(出稼ぎなど)以上に人々の行動を促す大きな要因となっている点だと言います。
国境を往来して生活する人々は、一種のノマド(遊牧民)やコスモポリタン的な存在であるかのように映りますが、本書の若者の語りからは、地縁と結びついた帰属意識は、簡単には他の自己認識に置き換わることはなく、却って異文化での生活経験が、故郷への帰属意識をより活性化させうることが示されます。
ただ、海外に移住した人々が皆故郷日本に回帰している訳ではなく、新たな生活を築きつつある状況にも意識を向ける必要がありそうです。例えば、バリでは現地で結婚して生活する日本人の女性が増加しているそうですが、こうした事例を比較してみることで、日本における「移民」の状況がより一層浮き彫りになるのではないでしょうか。
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by okphex | 2008-11-08 23:58 | 書籍