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by okphex
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徴兵か傭兵か。

マイケル・サンデル氏は、「自由至上主義」と「平等主義」の二つの観点から、政治哲学における「正義」の意味について議論しています。

議論の一つとして、「国民全体の公平性と福利を考えるならば、国家が国土防衛のための軍事力を維持しなければならないとすれば、傭兵制度と徴兵制度のどちらがより優れているのか」というものがあります。

彼はこの議論の前提として、まず「兵役(ひょっとしたら国家の公共サービス全般)は、国民全員が負うべき市民の義務なのか、それとも採炭や漁業のように、労働市場によってバランスが保たれているほかの仕事と同じく困難で危険な仕事なのだろうか」という問いについて答えなければならないと指摘します[サンデル 2010: 119-120]。つまり、兵役や軍事力の維持は、単なる国家による暴力装置の管理というものではなく、市民が担うべき義務であるのかどうかを問うているのです。

そしてこの問いには、さらに上位の問いがあると言います。それは、
「民主主義社会の市民がたがいに負っている義務とは何か、こうした義務はどのようにして発生するのか」というものです[同 120]。

つまり、「民主主義」という制度について考えた場合、「行使可能な権利の範囲」だけでなく、「制度の構成員は一体どのような義務を負わねばならないのか」についての考察も不可欠であるというのです。ここでは、”たがいに”という文言が重要です。一方の側、あるいは特定の役割を担った者だけが、「義務」を背負うのではなく、「権利」を有する者は、別の者の「義務」をわがこととして背負う必要がある、という信憑がこの制度の前提にあることを示しています。

多くの「民主主義」についての議論は、「個人」が出発点となっているために、この「相互的」な議論はあまり表面化していなかったように思えます。この「個人の自由」と「集団としての公平性」のバランスについて考えること、これがサンデル氏の議論の基調にあるようです。

これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学

マイケル・サンデル / 早川書房


by okphex | 2011-02-08 11:09 | 日々の文章