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by okphex
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「エコ・ミュージアム」についての補足

「エコ・ミュージアム」について,若干の補足です。

「エコ・ミュージアム」は,1970年頃にフランスで誕生した用語で,具体的な概念として定着したのは,リヴィエールという人の働きによるものだそうです。

それまで,博物館というと,美術的・文化的価値の高い資料を収集・展示することを主な目的としていました。そして,より価値の高い資料を保有することで,自らの権威が高まるため,どの博物館も,より美術的・文化的価値の高い資料の収集に熱中しました。

その結果,一般民衆の文化や歴史的資料がないがしろにされ,また価値ある資料は全て,博物館施設施設のある都市部に集中し,地方の文化的衰退が危惧されました。

そうした「伝統的な博物館」に対する挑戦として「エコ・ミュージアム」の概念が生まれました。「文化」や「博物館」の意味をもう一度捉え直し,博物館は,単に資料の収集展示を行うだけでなく,文化の発信装置でなければならない。地方の価値ある文化・財産を中央に集中させ,国家の権威や博物館の威信の向上を図るのではなく,文化の発信を通じて,地域社会の発展に貢献することこそが,博物館の使命である,としたのです。

その考え通り,「エコ・ミュージアム」は,資料の収集を原則的に行わず,現地での保存・展示を原則としています。また,行政の介入は法的な補助や政令による保護にとどめ,運営は地域住民の参加を主体としています。こうすることで,文化発信だけでなく,地域社会の実利的な発展にも寄与できる,より実際的な施設となることが出来たのです。

こうしてみると,「エコ・ミュージアム」の「エコ」は,環境保護という意味だけに留まらず,まさに生活環境全体を指した言葉だということが分かります。

地域社会の博物館として始まった「エコ・ミュージアム」も,最近は都市型「エコ・ミュージアム」が誕生したり,施設ごとに,構造や管理方法を変化させるなど,より柔軟に変化を続けています。

日本に「エコ・ミュージアム」の概念が導入されたのは比較的最近ですが,実際に「エコ・ミュージアム」を建設したり,構想を具体的に検討している地方自治体は日本全国に数多くあります。
法令の整備も進みつつあり,今後もますます「エコ・ミュージアム」構想に取り組む地方自治体が増えることが期待されています。

しかし,問題点も数多くあります。
これまで地域振興というと,行政が主体となって事業が策定・運営され,主役であるはずの地方の住民自身は多くの場合,受け身の立場となっていました。
「エコ・ミュージアム」構想の推進においてもこの点は例外ではなく,フランスなどの「エコ・ミュージアム」が盛んな国と較べて,日本はまだまだ運営を行政主導で行いがちです。そのため,地域の実情に沿った柔軟な運営が難しく,旧来のコンセプトをそのまま導入しようとする例が目立ちます。

非常に月並みな提案ですが,「エコ・ミュージアム」を制度としてだけではなく,概念的にも根付かせるためには,主役である地域住民自身が「エコ・ミュージアム」とは何か,ということを考え,運営を行政にお任せするのではなく,積極的で具体的な参加・運営構想を行政側に提示していくことが必要でしょう。

最後に,興味深い点は,フランスでは「文化」や「博物館」のあり方の追求が「エコ・ミュージアム」を生み出したのに対し,日本では主に地域経済発展の新しい手段として「エコ・ミュージアム」が導入されたことです。

確かに,前述の通り「エコ・ミュージアム」は,地域社会の発展への寄与も,重要な使命と見なしていますが,その前に「文化」やその発信装置である「博物館」に対する批判や見直しの運動がありました。日本では,その段階をあっさり飛び越し,「エコ・ミュージアム」の持つ,地域経済への寄与という実利面が強調される事となりました。

こうした面を捉えて,「日本は文化に対する意識が低い!」と批判するのは簡単ですが,見方を変えると,例えば今回のように,一旦地域経済発展という目的を明確に据えたら,その目的追求の為なら外国の文化概念や構想を導入することも厭わないという,ある種の大胆さを評価することもできると思います。
by okphex | 2004-03-30 17:15 | 人類学・人文科学