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by okphex
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『脱商品化の時代』(ウォーラーステイン 2004)

脱商品化の時代―アメリカン・パワーの衰退と来るべき世界

イマニュエル ウォーラーステイン / 藤原書店


「世界システム論」で社会科学、政治経済学など多方面に大きな影響を与えたウォーラーステインの近著は、資本主義経済の限界とその崩壊の経過を、史的観点から明らかにする事でした。

近年の大規模な環境破壊や相次ぐ景気後退により、近年金融と市場に支えられた資本主義経済は混乱しているように見えます。
しかしウォーラーステインは、こうした変動は、500年に及ぶ資本主義社会の展開が内包していた問題がついに限界を超えたために生じたものであって、必然の帰結であったと指摘します。
資本主義を基調とした社会はこれまで一貫して、発展に伴う利潤の増大と効率化をもたらすというバラ色の未来像を提示し、その実現に向けた期待を発展の推進力としていました。しかしながら実際のところは、資本主義経済が精緻化すればするほど、人々の生活が経済的に豊かに見えるようになればなるほど、賃金上昇の圧力は高まり、それが生活にかかるコストを押し上げ続けてきました。このようにして、資本主義社会における経済的効率性は不可避的に低下してきたというのです。こうした構造的矛盾は、これまでは「フロンティア」を開発することで先延ばしにされてきました。例えば農村の都市化、先進国による発展途上国の開発などです。その主要な目的は、新たな産業の創出と、低人件費の労働力の確保でした。こうして各国は、増大し続けるコスト上昇と利潤の拡大の折り合いをつけようとしてきたのです。
しかし、こうした開発モデルは、フロンティアがあってこそ成り立つもので、当然のことながらその進行には限界があります。その限界地点こそが、現在であるとウォーラーステインは指摘します。

では、史的に必然の歩みを続けているように見える人類に、どのような未来があるのでしょうか?
そのキーワードとしてウォーラーステインが提示しているのが、表題ともなっている「脱商品化」です。
すなわち、人間社会を維持するのに必要な基礎的要素を利潤の構造から解き放とうと提言します。
実際のところ、「脱商品化」という概念は、ウォーラーステインを含めた様々な研究者によって、主に福祉国家論の分野で盛んに議論されているようです。
これは一種の原始共産主義のようにも思える発想です。実際のところ、ウォーラーステインが期待を寄せるのは、これまでのユートピア的な革命思想から脱して、より現実的なビジョンと実行力を伴った「左翼」勢力です。
ただこの「左翼」という存在は、本書の後半になって突如登場するため、一体これがどのような勢力なのかが今一つはっきりしません。ウォーラーステインは自らを「左翼」側に立つ者と明確に規定しているようですが。

来るべき資本主義社会の崩壊後にどのような未来が待っているのか、という論考以上に、これまでどのような経過で資本主義社会が崩壊の道を辿ってきたのか、という分析の鋭さ、文体表現の巧みさに驚かされます。「野党、革命を志向する左翼勢力といった反システム運動の多くは、現体制の抜本的改革に対する期待を原動力として政権奪取の目的を達する。その途端に反システム運動は現実の構造変革の困難さに直面し、前政権の縮小再生産的な政権に変化してしまうため、支持層の深い失望を招く」といった指摘は、まるで現在の日本の政治状況を見透かしているかのようですね。
by okphex | 2010-09-23 06:06 | 書籍