『帝国』
2010年 04月 02日
かなり無謀なことに、A・ネグリと、M・ハートの『帝国』を読み始めました。
経済、情報などの次元でのグローバル化が進行した結果、もはや国民国家の国境線や政体を前提とした枠組みが通じなくなりつつある現在において、勃興しつつある新たな秩序を、〈帝国〉とカッコ付けで表現しています。
本書が執筆された時代背景や、言及されている国際政治の変動から考えると、著者らが想定している「根本的な秩序変化」とは、冷戦の崩壊によって生じた世界の勢力図の変化ではなく、湾岸戦争に代表されるような、「(秩序を維持するために遂行される)聖戦」が正当化され始めた変化を指し示していると言えそうです。
この辺りの議論は、冷戦集結~新世界秩序の提唱を現実の感覚として経験した人なら納得できるかも知れません。1989年頃に始まった冷戦構造の崩壊は、ベルリンの壁に象徴されるような、「第一世界(西側)」と「第二世界(東側)」の対立の明確な帰結として示されました。
その一方で、冷戦後に勃発した第一次湾岸戦争では、何らかの明確な構図は示されたでしょうか。実際には、集結したアメリカを中心とした多国籍軍のどの国も、一体いかなる理由のもとにイラクという、当時でも全く戦力的には比較にならない相手に一方的な戦闘を仕掛けるのか、という正当性について説明できませんでした。
過去の帝国主義が、中核となる国家の利害関係に左右されるとしたら、〈帝国〉は、国家という枠組みを越えて、新世界秩序を唱える場にはどこにでも生じうるような、法と言説の体系を象徴化した用語のように思えます。今後の文献レビューで、これまでの推論を確認してみたいと思います。
by okphex
| 2010-04-02 21:24
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