人気ブログランキング | 話題のタグを見る

写真関連のニュースと写真ギャラリー,そして文化人類学に関する記事を掲載しています。


by okphex
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

『文化移民』

文化移民―越境する日本の若者とメディア

藤田 結子 / 新曜社

スコア:



ぱらぱらと眺めてから、暫く本棚にしまっておいた『文化移民』(藤田結子著)を手に取りました。
この本は、アメリカやイギリスのポピュラー文化に憧れて移動する日本の若者に対するインタビューと著者の分析で構成されています。

日本社会に居場所を見出せず、「自分らしい生き方」を見つけたいと考える日本の若者を、「文化の吸収」を目的とした一種の「移民(文化移民)」として位置付け、彼らの持つアメリカ、イギリス(調査対象者となった若者達にとって、「外国」とは、まず「アメリカ」であり、「ヨーロッパ」とは、具体的にはイギリス、フランスを指しており、それ以外の国や地域がイメージされることはほとんどない)に対するイメージ、そしてこうしたイメージがどのような経路を辿って形成されたのかを探ります。そして実際に現地に移り住んだ若者達の、イメージと現実のギャップに対する戸惑いを、インタビューを通じて明らかにしていきます。

本書のポイントの一つに、若者達は現実の日本社会に居場所が見出せず、新天地に旅だったはずなのに、その場所においては、却って「日本人」としての認識がより一層強化されている、という指摘があります。

著者は、調査対象となった若者達は、日本社会における生活の中では自らの「民族性」を認識する機会がほとんどなかったのとは対照的に、新天地において多民族、異文化に取り囲まれる中で、自らの出自や民族性を否が応でも実感せざるを得なかったのではないか、と指摘しています。

しかし、本書の1章で掲げられているように、彼らの持つ主観的な世界地図「イメージマップ」において、日本を地図の周辺に位置付けて認識していることからも、彼ら自身はもともと自らの民族性を相対化する術を持っていた可能性もあります。それを具体的な認識として言語化する手段に欠いていたが、海外渡航という経験を通じて、「民族性」を語ることができたのかも知れません。

内田樹氏が『日本辺境論』で指摘しているとおり、「日本人は自らの民族性を、自らの外部に”中心”を設定するという、”周縁性”からでしか認識できない」という思考回路があるとすれば、常に自らの立ち位置を相対的に判断する作業を反復していることを意味しているのかも知れません。

ただこうした思考回路は、「主体性の無さ」といった、ネガティブに捉えるべきものでは必ずしもなく、常に他者の存在を意識し、その関係性を探り続ける、という、コミュニケーション確立の基本条件として、むしろ肯定的に捉えても良いのではないかと思っています。
by okphex | 2010-03-27 11:06 | 書籍